僕はアートに関して、とても幸運な人生を送ってきた。小学校のころから小杉武久の演奏を体験する機会があったのだから。父・粟津潔に連れられていった場所はどこかの大学講堂だったように思う。そこで初めてタージ・マハル旅行団を体験したのだ。さらにまた何年かが過ぎたニューヨーク、マース・カニングハム・ダンス・カンパニーのオーケストラ・ピットで、小杉武久は孤独な世界に一人、険しくも美しい音を奏でていた。その後東京でもその演奏を聞けたし、青森では彼のインスタレーションをはじめて見た。そして、2007~2008年に金沢21世紀美術館で大々的に行われた「荒野のグラフィズム 粟津潔展」の最中での圧倒的なパフォーマンスは忘れることはできない。
それからまた何年かが過ぎ、芦屋市立美術博物館の「音楽のピクニック」 展で僕は小杉武久と再会することになった。とても嬉しかった。その時、「亀は元気?」と彼は言った。1970年、イランの砂漠からタージ・マハル旅行団が粟津潔への土産として連れて帰った小さな陸亀のことである。時は過ぎ、粟津潔は死に、小杉武久もこの世を去った。けれども、その亀(名前はマランダ!)はきっと脳内に電子音を響かせ、今日も粟津潔邸の屋上を元気に動き回っている。
1972年の完成当時、粟津潔邸=AWAZU HOUSEは「出会いの場」だった。音楽家、詩人、デザイナー、美術家、写真家、映像作家、建築家など、粟津潔を中心に、彼らはここで出会い、共鳴し、時には摩擦し、何かを発見し、何かを作り始めた。
2024年11月、原広司設計によるこの傑作な空間、今回、そこにとてつもない魂を吹き込む。肉体は存在しなくてもこの芸術家の突き抜けたスピリットは、今、音となり形となり、AWAZU HOUSE を自由に踊りはじめるのだ。
小杉武久、未来へ!
粟津KEN
基本情報
会場 |
AWAZU HOUSE[神奈川県川崎市多摩区南生田1-5-24] |
会期 | 2024年11月9日(土)〜11月17日(日) |
開館時間 | 11:00 – 18:00 *最終入場 17:30/イベントのある日は変更の場合あり *会期中無休 |
展示予定作品 |
小杉武久:《五十四音点在》(1980)、《Interspersion 1998》(1998)、《Illuminated Summer II》(2016)、ほか |
料金 |
一般:3,000円/学生:2,000円
[関連イベント] 《対談「小杉武久、タージ・マハル旅行団、etc.」》 ※こちらのイベントは終了しました。
《和泉希洋志 オープニングアクト》 ※こちらのイベントは終了しました。 小杉武久《Music for Nearly Ninety, part A》 (2009) の演奏
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企画・制作 |
HEAR/KEN/SETENV |
協力 |
藤本由紀夫 |
お問い合わせ | SETENV:mail[at]setenv.net |
*内容は変更の可能性がございます。
プロフィール
小杉 武久(1938 – 2018)
Kosugi, Takehisa
1938年東京生まれ。東京芸術大学在学中の1960年、日本で最初の集団即興演奏のグループ「グループ・音楽」を刀根康尚、 塩見允枝子(千枝子)らと結成。60年代初めには、イヴェント作品が芸術家集団「フルクサス」によって欧米に紹介される。 1965-67年ニューヨークに滞在し、ナムジュン・パイクらフルクサスのメンバーとミクスト・メディアによるパフォーマンス を行うと共に、自作コンサートを開催。1969-76年、「タージ・マハル旅行団」のメンバーとして、国内外の芸術祭、音楽祭、 ロック・フェスティヴァルなどに数多く参加。この間個人としても、大阪万博(Expo ʼ70)の「お祭り広場」の環境音楽や NHK 電子音楽スタジオ委嘱作を作曲するなど、エレクトロニクスを用いた独自の表現によって作曲家としても注目される。 1977年のアメリカ移住以来、マース・カニングハム舞踊団の作曲家/演奏家としてジョン・ケージ、デヴィッド・チュードア らと活動。1995年から2011年まで同舞踊団の音楽監督を務めた。世界各地でのコンサート活動と共に、サウンド・インスタレーション作品を美術館、ギャラリーで発表。常に現代芸術の最先端で活動を展開していた。
1966年と1977年にJDR 3rd Fund、1981年にはDAADのグラントを取得。1994年には、一連の音楽活動に対して第2回 「ジョン・ケージ・アワード・フォー・ミュージック」を受賞した。
粟津 潔(1929 – 2009)
Awazu, Kiyoshi
1929年東京都生まれ。独学で絵・デザインを学ぶ。1955年、ポスター作品《海を返せ》で日本宣伝美術会賞受賞。戦後日本のグラフィック・デザインをけん引し、さらに、デザイン、印刷技術によるイメージの複製と量産自体を表現として拡張していった。1960年、建築家らとのグループ「メタボリズム」に参加、1977年、サンパウロ・ビエンナーレに《グラフィズム三部作》を出品。1980年代以降は、象形文字やアメリカ先住民の岩絵調査を実施。イメージ、伝えること、ひいては生きとし生けるものの総体のなかで人間の存在を問い続けた。その表現活動の先見性とトータリティは、現在も大きな影響を与えている。
和泉 希洋志
Izumi, Kiyoshi
大阪中津 SOMA を日常的な DIY の拠点にして、食の場、レーベル、ギャラリーを運営する、絵画/彫刻/映像/サウンドなど 自在にリミックスし作品を編むアーティスト。
1990年に美術作家として初個展。1997年にエイフェックス・ツイン主宰リフレックスよりソロ・デビュー。2000年 1st、 2004年 2nd アルバム、2011年にはアシンメドレー名義のアルバムを Altz Musica より発表。2016年には自身が描いた7m に及 ぶ絵画を CD サイズに分割、切断したピースをジャケットにした4枚組アルバムを発表した。
2015年にはホイットニーミュージアムでの小杉武久のパフォーマンスに参加するなど、ジャンルを超えた活動を行う。2023年 YoshimiO とのユニット、YoshimiOizumikiYoshiduO のアルバムを Thrill Jockey Records よりリリース。
ニシジマ・アツシ
Nishijima, Atsushi
1965年 京都市生まれ。80年代後半より実験音楽の制作、ライブ・エレクトロニック・ミュージックによる演奏を始める。その後、音が持つ様々な側面から発想した聴視覚作品の制作も始める。
「Humor Identification/脱力と直観」8/ART GALLERY/ 小山登美夫ギャラリー(東京/2017)
「SUBTRACTIVE CREATION : VISIBLE SOUND」Location One(ニューヨーク/2001)
「Citycircus」-Rolywholyover A Circus-John Cage/The New Museum of contemporary art(ニューヨーク/1994)他
現在も国内外をとわず精力的に活動をしている。
文化庁新進芸術家海外研修(ベルリン/2013)Asian cultural council [Japan-United States Arts Program Fellow] (ニューヨーク/2001)他
関連イベント
和泉希洋志 オープニングアクト
※こちらのイベントは終了しました。
小杉武久《Music for Nearly Ninety, part A》 (2009) の演奏
日時:2024年11月9日(土)14:00 –
出演:和泉希洋志
料金:一般 3,500円/学生 2,500円(当日中の展示の入場料を含みます)
*要ウェブ予約/定員40名
対談「小杉武久、タージ・マハル旅行団、etc.」
※こちらのイベントは終了しました。
日時:2024年11月16日(土)15:00 – 17:00
出演:湯浅学(音楽評論家)、松村正人(編集者、批評家)
*当初予定しておりました永井清治氏(タージ・マハル旅行団メンバー)のご出演は、ご体調の都合により難しくなりましたため、出演者を上記の通りに変更させていただきます。
料金:一般 3,500円/学生 2,500円(当日中の展示の入場料を含みます)
*要ウェブ予約/定員40名
湯浅 学 Manabu Yuasa
1957年、神奈川県横浜生まれ。東京造形大学デザイン学科映像専攻卒業。在学中、大瀧詠一の事務所・スタジオでアシスタントを経験。また、1982年に根本敬・船橋英雄と「幻の名盤解放同盟」を結成。廃盤となった個性的すぎる歌謡曲の紹介・復刻を手がける。また、音楽評論家として、ジャンルを越境した濃い音楽について、多くの雑誌やライナーノーツに執筆。バンド「湯浅湾」のリーダーとしても活動している。「幻の名盤解放同盟」常務。バンド「湯浅湾」リーダー。
松村正人 Masato Matsuura
1972年奄美生まれ。編集者、批評家。雑誌『STUDIO VOICE』『Tokion』編集長をへて2009年に独立。著書に『前衛音楽入門』、編著に『捧げる 灰野敬二の世界』『山口冨士夫 天国のひまつぶし』『青山真治アンフィニッシュドワークス』、監修書に『文藝別冊 髙橋幸宏~音楽粋人の全貌』など。フォークロックバンド湯浅湾のベース奏者として『港』『脈』ほか。
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