SETENVの創設メンバーのひとりであり、また東京大学文学部行動文化学科社会学専修課程の同級生(年齢も卒業年も同じ)でもある光岡寿郎くんに連載を依頼しました。
依頼した理由は、信頼できる研究者であり、大切な友人である光岡くんの文章を私がSETENVのサイトでぜひとも読みたかったということが大きいです。
光岡くんには楽しく自由に書いていただきたいと伝えています。不定期連載ですので、よろしくお願いいたします。(入江)

僕が今回文章を寄せた経緯は入江くんからのご紹介の通りです。純粋な学術論文でもなく、社会に対して問うべき依頼原稿でもなく、ただ20年以上続く友情がきっかけになる文章があっても良いだろうというのも理由の一つです。なお、基本的に今後も文章に添えられた写真は必ずしも本題とは関係なく、僕が日々撮影したものを気ままに掲載する予定です。これも学生時代、僕が本気で写真に取り組んでいたことをSETENVの皆さんは知っているので。(光岡)

この数年、メディアが美しくなくなった。つとそれを感じるようになったのは、外でお酒を飲んで帰宅するときに、電車で本も読めず、音楽を聴くほどの集中力もなく、ただスマートフォン上の情報を眺めていたときだった。あり体に言えば、ネット広告って美しくないよねとしみじみ感じたことが大きい。というのも、ある時期まで、広告には作家性を見出すことが可能だった。そしてそれは、長らくラジオ、映画、テレビといった広告を掲載する主流のメディアのフォーマットが安定していたからだろう。つまり、15秒や30秒という枠の制限のなかで何らかのメッセージを伝えるというフォーマットを維持している以上、そこに作品としての魅力を込めることが可能だったはずからだ。

ところが、現在のオンラインの広告には、そういった作品性は必要がない。より正確には、作品性があってもなくても構わない。なぜなら、オンラインの広告は、作品に感動させることではなく、強制的かつ確実にスワイプさせたり、一定の時間強制的に画面を固定させたりする、つまりアルゴリズムレベルでの広告技術の洗練に注力してきたからだ。そこには、技術的な特性もあっただろうし、作品を生み出すことに対してアルゴリズム管理する方がコストが安いという観点もあっただろう。ただ、アルゴリズム的に強制的に私たちの目に映ずる広告は、少なくとも視覚的にも物語的にも息をのむものはほとんど存在しなくなった。ゆえに、最近の広告は美しくない。

一方で、今年度に入って学生の研究発表を聞きながら同じようなことを考えていたのが、「webtoon」、つまりスマートフォンをベースに縦スクロールで読むマンガだ。日本のwebtoonはまだ日本的な意味でのマンガのたたずまいを残しているように見えるのだけれども、韓国の本場のwebtoonには、基本的には「コマ割り」という概念が希薄なように見える。そこには、広告と同様に、マンガという紙のメディアにおいて維持されていたフォーマットが、それを運ぶスマートフォンやタブレットの画面というコンテナのフォーマットに切り替わったことが大きい。少なくとも見開きのマンガを前にして、上下左右に視線を走査させる必要はない。視線がというより、指の垂直方向への動きをフォローして、ただ視線は下へ下へと向かっていく。そこには、マンガの内容とは異なる形式のレベルで画面を構成し、何かを伝えるという意識は弱い。ただ、下へとスクロールしていくというその事実だけが物語の進行を支えている。もちろん、士郎正宗のように、コマとコマの間の余白にまでマンガであることを詰め込む必要はないけれども、それでも最近のマンガもまた美しくない。

ただ、ここまでの流れから僕が伝えたいのは、テレビのCMや、オーソドックスなコミックスに戻るべきだというノスタルジーではない(ただし、そうなったとしても僕は何ら困らない)し、メディアコンテンツに対して過剰に作家性の幻想を投影したいということでもない。そうではなくて、スマートフォンという小さなハコ、もしくはイタに従来のメディアコンテンツが集約されていくなかで、そこにもまたスマートフォンの画面ならではの固有性が存在する以上、その固有性に基づいたアフォーダンスをデザインすることで息をのませるメディア経験はあり得るだろうということだ。それはおそらく、コンテンツとしてのメディアの美しさではないにしても、美しくないメディアではないはずである。

光岡寿郎
[東京経済大学コミュニケーション学部教授]
1978年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究専攻博士課程修了。2000年に共同創設者の一人としてSETENVを立ち上げ、「Variations on a Silence ──リサイクル工場の現代芸術」では教育普及プログラム、ボランティアのマネージメントを担当する。その後、研究に仕事の軸足を移す。早稲田大学演劇博物館グローバルCOE研究助手、東京経済大学コミュニケーション学部専任講師を経て現職。 主な著作として、『変貌するミュージアムコミュニケーション 来館者と展示空間をめぐるメディア論的想像力』(せりか書房、2017年)、『スクリーン・スタディーズ デジタル時代の映像/メディア経験』(東京大学出版会、2019年/共編)、『ポストメディア・セオリーズ メディア研究の新展開』(ミネルヴァ書房、2021年/共著)など。