最近、夢をよく見る。
ユングによれば、ある程度の統合性がある自我に対して、無意識はそれに補償的、平衡的な働きをなすという。つまり、夢の一般的な機能は心理的な機能を回復する試みなのだと。さらに、ユングの心理療法を日本に確立した河合隼雄氏は夢を見ることや分析することについて、このように言う。
われわれが夢に注目し、それを自我のあり方と照合し、夢の告げるところの意味を悟り、自分の生き方をそれに従って改変してゆくときは、以前よりは高次の統合的な存在へ向かって変化してゆくことになる※1
陳腐な表現だが、まるで夢のようだったとしか喩えようがない。
ビョーク自身が「今までで最も念入りに苦心して作り上げたコンサート」と語り、2019年から始まったライブショウ、『cornucopia』が東京ガーデンシアターで行われた。
常に新たなテクノロジーを用いることで、「新しいものに目がない」と誤解されがちなビョークが、敢えて「最新」とカテゴライズしたショーの意味をオーディエンスは目の当たりにすることになる。Tobias Gremmlerによるプロジェクションは、有形無形の様々なアバターを現出させ、ビョークらが生み出す音と共振し、生命のたゆまぬ変容と進化を描き続けた。それは世界をも巻き込み、弁証法によりゼロからの理想郷を創造し、正に”高次元”の存在へと昇華してゆこうとする様に見えた。
アンコールの直前に投影されたのは、環境活動家グレタ・トゥーンベリからのビデオメッセージ。環境保護、チベットやコソボの独立、MeToo運動への支持など、政治的イデオロギーの発露が過ぎるという声がビョークにはつきまとう。しかし、細部に至るまで念入りに練り上げられた『cornucopia』は、普段は「見えないもの」を可視化し、ここにある、変革の萌芽を共有することに成功していた。どうやら、私は今もその夢の中にいるようだ。
※1:「明恵 夢を生きる」河合隼雄著